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やりがいと想い、ビジョンと現実。

『今』を受け止めて生きる、高浜の漁師たち。

 

 

 

福井県高浜町は海の町。海水浴を主とする観光業、若狭湾の美味しい魚を食卓に届ける漁業は、昔から町の要となる産業でした。

 

ですが時代は流れ、現在、人々の余暇の過ごし方、好まれる食事、そして地球環境など、様々な変化が起こり、漁業をはじめとする町の1次産業は後継者不足など数々の問題を抱えています。

 

漁業の再興を目的とした6次産業施設「UMIKARA」のオープンを今夏に控え、漁師たちはいま何を思うのか、どんな未来を見ているのか。「UMIKARA」に一番近い高浜漁港から船を出す、高浜地区の漁師、大黒さんと久富さんにお話を聞いてみました。

 

 

▼高浜漁港

 


 

危険もある。苦労も多い。問題が山積みの高浜漁業。

 

 

ピン!ト:

漁師さんって朝が早いイメージですが、一日のスケジュールってどのような感じなんですか?

 

 

久富:

初春ごろから刺し網、5・6月は延縄、お盆が過ぎたら鯛を狙って…とか。それぞれの漁師によって多少の違いはあるけど、みんな季節によって魚も漁のやり方も変わるからね。狙いが変われば、スケジュールも変わる。獲る魚に合わせた時間で動かないとね。

 

 

大黒:

早いときやと4時ぐらいには海に出る。深夜1時ごろから漁に出る人もいるで。もう早朝というより夜中やな。

 

 

▼塩土区の漁師 大黒さん

 

 

ピン!ト:

そんなに真っ暗な時間からですか?!高浜の漁師さんって、船にひとりで乗っていると聞いたんですけど、危険ですよね。

 

 

大黒:

それは、もちろん危ない。年寄りの漁師が多いからな。船から落ちてしまったらアウトやね。若い人ならどうにかなるかもしれんけど、やっぱり年には勝てんよ。自分で船に上がれないから、どんどん体温が下がって、体力もなくなって、冬場やと30分が限度ちゃうかな。

 

 

久富:

跡継ぎがいるところやと、2人で船に乗るけどね。どこも後継者がおらんから、1人で漁に出る。後継者ってジワジワ減ってるんじゃなくて、世代交代のタイミングでガクッと少なくなる。俺は20歳から漁師の道を選んで、おじいさんから技術とか道具とか受け継いだんやけど、同じ世代で継ぐ人は少なかった。俺の子ども世代になってくると、さらに少ないからね。漁師って、自然相手の仕事やから危険もあるし、儲からないから、みんな苦労してきている。だから、自分たちの子ども世代に『継いでくれ』って言いにくいんよな。

でも、誰か高浜で漁師がしたいって人が来てくれたら、船とか道具とか、漁の技術とか受け継いでもらって、これからも高浜の漁業が続いていってくれたらいいのにと思うけどね。本格的な漁師体験とかやっていったら、高浜で漁師をやりたいと移住してくれる人が増えないかな?

 

 

▼事代区の漁師 久富さん

 

 

ピン!ト:

高浜地区の漁師さんって、塩土と事代の地域に分かれてますよね?いま、それぞれ何人ぐらいの漁師さんが船を出しているんですか?

 

 

大黒:

塩土は、いま6人や。最高齢が90過ぎやで。すごいやろ?80代の漁師も3、4人おる。みんな現役で船出しとるで。

 

 

久富:

70歳代の大黒さんは、塩土では、まだまだ若手やから。(笑)

事代も漁師の数は少ない。塩土と同じように、どんどん高齢化が進んで、跡継ぎもほとんどいないね

 

 

 

危険もある、儲かるわけでもない、後継者はどんどん少なくなる。漁師の「いま」は問題が山積み。ですが漁の魅力にはまり込み、高齢となっても引退せずに漁に出ることを選ぶ漁師もいます。漁師という職業を見限らず、長年船を出し続けている人がいます。現役の漁師たちが感じている、漁業の魅力とはいったいどんなものなのでしょうか。

 

 


 

やりたいようにできる、漁師の醍醐味はやっぱりそこ!

 

 

ピン!ト:

漁師になろうと思ったきっかけって何だったんですか?

 

 

久富:

単純かもしれんけど、漁師が減っているってことは、個人の漁獲量が多くなるんじゃないかと思ったんや。漁場はそのままやのに、獲る人が少ないなら、儲かるんじゃないかと。実際、いま漁港全体の漁獲量は少なくなってるけど、個人の漁獲量は多くなってる。でもな、魚の値段もどんどん下がってきてるから、儲けにはならんかった。そううまくはいかんかったな。

 

 

大黒:

もともとはサラリーマンやった。一部上場の大きな会社やったんやけど、33歳のときに転職して漁師になったんや。別にサラリーマンが嫌やったわけじゃないんやけど、やっぱり会社勤めやと上司や先輩の指示に沿って仕事せなあかんやん?それがちょっと肌に合わんかった。まあ、給料が多いわけでもなかったし、若い漁師もいなかったから、漁師として天下とれんかな~と思って。

そのころ、高浜にはお客さんを乗せて、魚群探知機を使った本格的な沖釣りが楽しめる遊漁船がなかったし、漁師しながら、遊漁船もやった。民宿もいっぱいあったし、泊まってる人を乗せてな。親は延縄の漁をしとったんやけど、塩土はもともと網が主流やったから、先に網を使った漁を覚えたり、いろいろやったなぁ。昔は仲買さんもたくさんいたし、今よりは安定してた。特に冬の魚は値段もそこそこ良かったんやで。

 

 

 

ピン!ト:

お二人ともバイタリティが凄いです!実際に漁師になって、良いことも、思い通りにならないことも、いろんな想いがあると思うんですが、いま漁師としてこういうところが楽しいな~とか、やりがいがあるな~って感じるポイントって教えてもらえませんか?

 

 

久富:

そりゃ、狙いが当たって大量に魚が獲れたときのうれしさやね。今日はどこで漁をしようか、どの魚種を狙ってみようか、全部自分で決める。誰かに指示されるわけじゃなく、自分のカンと経験だけが頼りや。それで大量に獲れたら、賭けに勝った!って気分になる。(笑)道具を直したりキレイにしたり、そういうのも全部自分でやらなあかん。自分で頑張った分が、自分の成果にしっかりつながる。だからサボろうとか思わんねん。サボったら、自分の首絞めるだけやしね。

 

 

 

大黒:

他の漁師たちは仲間であって、ライバルでもある。競える環境っていうのは、モチベーションを保つために大切やね。年はとっても、やっぱり負けたくないもん。一番たくさん魚が獲りたい。だから、そのために投資もするよ。網とか縄とか、道具にも投資。純利益もちゃんと考えて、自分なりに頭脳プレーをもしてる。道具もどんどん機械化してきてるからね。いま、みんな船にGPSをつけていってるんや。海は道路みたいに目印がないやろ?昔々は、周辺の山のカタチとかで、いまどこあたりにいるか、どちらを向いているかを判断していたらしいけど、もうそんなん誰もできひん。自分の位置がわからんと、ほんま危ないからな。

 

 

久富:

どんどんシステム化していってるよ。導入資金もかかるし、使い方を覚えるのも一苦労やし、いいような、悪いようなって感じやけど。でも慣れたら絶対便利やし、危険も減るやろし、良いと思う。獲れる魚の種類もどんどん変わるしな。昔はサヨリとか太刀魚とか獲れてたけど、いまは獲れない。逆に昔はほとんど獲れなかったカラスガレイとか、いまよく獲れるしね。最近、イワシも獲れにくくなってきとるんやで。どうも、魚の獲れる、獲れんには周期があるみたいやな。道具もそうやけど、その時代の漁の流れにしっかり乗っていかんとあかんな。

 

 

 

ピン!ト:

なにもかも世襲ってわけじゃないんですね。もちろん教えられた基本の漁スタイルはあるとは思いますが、やり方も変えていかないとダメなんですね。皆さん自由に漁をされているんだって初めて知りました。

 

 

船も道具も、その日の漁も、すべてどう料理するかは、自分次第。毎日の漁の良いも悪いも自分の成果。だからこそ、夢があるし、自分の力を試せる。これぞ男のロマンですよね。お二人とも、競い合えるから面白いのだと漁師らしい「負けず嫌い」を語ってくれました。

 

 


 

今夏オープン。

海の6次化施設「UMIKARA」について。

 

 

高浜漁業と密接な関係となる漁業の6次産業施設『UMIKARA』のオープンはもう間近。

 

▼奥に見えるのが建設中のUMIKARA

 

ピン!ト:

もうすぐ『UMIKARA』が出来上がりますけど、期待していることってありますか?漁港も『UMIKARA』の隣に移築される予定ですが、不安なこととかありませんか?

 

 

久富:

不安といえば、漁港が『UMIKARA』の近くに移動することやな。いまの船着き場から遠くなるんやんか。下ろした魚を漁港まで持っていくのが大変になる。ほな近くに船を停めたら?ってなると思うけど、あのあたりは波が強いし、冬とか海が荒れとるときは、まず船を停められる状態じゃない。そのへんは不便になるなぁって思うな。

 

俺もそうやけど、漁師って基本的に誰かと接することが少ないから、人前に出てなにかするっていうのは苦手。恥ずかしいねん。(笑)でも、なかにはコミュニケーションをとるのが得意なやつもいるから、漁師と一緒にイベントをやっていきたいっていう『UMIKARA』の想いには応えられるんじゃないかな。

 

 

▼久富さんと奥さまをパシャリ

 

 

大黒:

魚の値段や価値があがらないと、このままでは漁師はやっていけない。昔の半額以下になっとる魚もいっぱいあるしな。数を売らないとあかんから、隣市とかに魚を持っていくこともあるんやで。単価は安くても、やっぱり仲買さんが多いのは強いしな。だから、『UMIKARA』で売る場所の選択が増えてくれるってのは嬉しい。漁業再興とか魚価をあげるとか、できたらいいに決まってるけど、こればっかりは簡単に解決する問題じゃないからな。現状維持していけたら、万歳やな。そやし『UMIKARA』に過度な期待をしているわけではないんや。もちろんイベント参加の依頼があれば、協力していきたいと思っているで。

 

 

▼大黒さんと奥さまをパシャリ

 

 

魚の値段や価値が下がっていること、後継者がいないこと、様々な問題を抱えている高浜漁業。でも、漁師たちは「いまの高浜漁業」をしっかりと受け止め、さらにそれぞれの「やりがい」を見出し、『UMIKARA』のオープンという「変化」にも寄り添っています。

現実をしっかりと生きる漁師たちの想い、そして新しい驚きや発見がたくさんあった今回のインタビュー。また和田地区、内浦地区の漁師さんにもお話を聞いてみたいと思います。

 

また、高浜の漁師や魚について、雑誌FRaUでもピックアップされています。高浜の美し海のこと、『UMIKARA』や『はもと加工販売所』のこと、そして漁師や漁業のこと。新しい漁師町をテーマに、高浜が描かれています。ぜひこちらもご覧ください。

 

WEB版「FRaU」https://gendai.ismedia.jp/articles/-/80197

 

 

▼若手漁師岩本さんに遭遇 親子でパシャリ 

 

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