2024.6.18

美味しいを届ける喜びを、次世代へ。

魚食の可能性と向き合う料理人、安藤史貴さん。


2021年、高浜町にオープンした海の6次産業施設「UMIKARA」の館内にある『うみから食堂』は、海の見える開放的な空間で、新鮮な地魚を生かしたランチやカフェメニュー、週末の夜はお酒に合うメニューも提供しています。

 

 

海鮮丼、定食などの定番をはじめ、アイデアに富んだ創作料理や固定観念にとらわれない多国籍料理のようなラインナップまで、食堂で提供されるメニューは様々。お客さまに『新しい魚食を提案する』ことをコンセプトとしています。

 

 

そんなうみから食堂の料理長として腕をふるっているのが、安藤史貴(ふみたか)さんです。安藤さんは、うみから食堂のオープンに伴い、高浜に来られた移住者です。

安藤史貴 さん

静岡県沼津市出身。二十歳のときから料理の道へ。御殿場高原ホテル、淡島ホテルなど、様々なレストランで料理人として修業・経験を積んだ後、独立。約2年後、レストラン経営からメニュー開発などを行っているカフェカンパニーに入社。千葉県館山市のホテル内にあるレストランで店長兼シェフとして勤務。その後、うみから食堂のシェフとして高浜に移住。

 

 

高浜の魚食を盛りあげたい。

やりがいに惹かれて移住。

 

 

高浜でシェフとして活躍する安藤さん。移住されたのは、うみから食堂でシェフをするためですか?

 

 

安藤:

「僕は6次産業施設として立ち上がったUMIKARAで提供する食事のメニュー開発という役割で高浜と関わりはじめました。当時は、移住までは考えていなかったんですが、開発を進めていくうちに、食堂の立ち上げやスタッフ育成なども手伝ってほしいと依頼していただいて、高浜に来ることにしました。」

 

 

安藤:

「実は、移住するまで、日本海側の海の食材を扱ったことも、現地で食べたこともなかったんです。はじめて、この町に来たときに魚を食べさせてもらって、衝撃が走りました。同じ魚、同じイカでも、味が全然違うんです。それが、すごく面白いと思って。

 

 

安藤:

「もっと日本海で料理に携わってみたいな、全面的にUMIKARAの立ち上げサポートをしていきたいなと思っていた矢先に、来てほしいと言われたので、これは自分にも絶対プラスになる!とお引き受けしました。」

 

 

 

メニュー開発だけでなく、うみから食堂のシェフ、スタッフ育成など、さまざまな使命を背負って高浜に来ることになった安藤さん。どの役割もやりがいがあるそうですが、特にお客さまに提供する魚食のメニューの開発は、優先して取り組まないといけないことだといいます。

 

 

 

魚の価値を高め、

みんなに愛されるメニューづくり。

 

 

うみから食堂では、海鮮丼や漬け丼、あご出汁ラーメンなどをロングランメニューとして提供しながら、定期的に新メニューが追加されています。すべて、いろいろな人の意見を取り入れて、何度も試作を繰り返したこだわりのメニューだそうです。

 

 

安藤:

「うみから食堂のメニューは、高浜や若狭の魚の美味しさが伝わるものがメインとなっています。ですが、その他にも地域には美味しい食べ物がたくさんあって、使わないなんてもったいない!そこで、うみから食堂のメニューは『魚』と『地元食材』の二本柱を軸にして考えています。」

 

▼若狭の旬の魚を使ったメニュー

写真:UMIKARA提供

 

高浜の魚の美味しさを知ってもらう、新しい魚食を提案する、そんなメッセージが伝わるうみから食堂のメニューですが、魚以外のメニューも人気なんだそう。

 

安藤:

「魚の美味しさがシンプルにわかる定番の丼やお刺身は外せませんが、それ以外は地元食材を活かした、季節を感じるメニューづくりを意識しています。たとえば、冬は「うちうらレモン」を使ったクリームパスタ。夏は地元産のトマトを使った冷製パスタなど。あとは、へしこを使ったポテトサラダなど、メイン以外もこだわってつくっているんですよ。」

 

▼地元食材を使った季節限定のメニュー

写真:UMIKARA提供

 

安藤:

「魚が美味しいと思ってもらっても、毎日魚ばっかりでは飽きてしまう。魚食を長く愛してもらうためには、魚以外のメニューも大事だと思っています。うみから食堂は『魚料理の店』じゃなくて『魚の美味しさを伝えるというUMIKARAのコンセプトを背負った店』ですから、いろいろなアプローチをしていかないと。」

 

 

観光客の方には高浜の魚の美味しさをダイレクトに伝える定番の丼などを、地元の方には毎日食べに来たいと思えるように季節の味覚や魚食以外のメニューも…それぞれに大切なお客さまだから、みんなに満足してもらいたいというのが安藤さんの想いだそうです。

 

▼有名シェフを迎えてのメニュー開発も

写真:UMIKARA提供

 

安藤:

「たとえば骨を気にせず子どもたちが魚を食べられる料理、たとえば多国籍料理や流行の調味料を取り入れた料理など、うみから食堂が掲げる『新しい魚食の提案』は、アプローチの幅が広いので、とても難しいです。でもアイデアや可能性が広がって、とても面白いと感じています。」

 

▼大きなパエリアをつくる安藤シェフ(うみから昼市)

写真:UMIKARA提供

 

思い入れたっぷりに、ひとつひとつのメニューを開発している安藤さん。アプローチ幅が広いというメニュー開発において、スタッフやお客さんからの声や意見はとても参考になるそうで、私も食べたいメニューをリクエストしてみたところ、笑顔で考えてみると答えてくれました。

 

 

 

求ム!後継者。

大切なのは「好き」という強い気持ち。

 

 

メニュー開発のほかに、安藤さんが試行錯誤していると言っておられたのが、後継者探しです。

うみから食堂のコンセプトを大切にし、安藤さんと同じ視点で歩んでくれる人材。最終的には、うみから食堂をシェフとして守っていってくれる人を求めているそうです。

 

 

安藤:

「一緒にお店を盛りあげてくれるスタッフとしてなら、いい出会いもあるんです。いまのうみから食堂のスタッフたちもそうですし。でも、その中心としてスタッフたちをまとめながら、美味しい魚料理を作れる人となると、そう簡単には見つかりませんね。」

 

安藤さんは移住前に勤めていた館山のレストランでも、いまと同じような課題を抱えていたといいます。

 

 

安藤:

「都心のように人が多いわけでもない町で、さらに料理の世界と限定すると、本当に人材って限られてきます。さらに、うみから食堂は6次産業のコンセプトを背負っている分、高浜の魚の美味しさを伝えたいという想いを共有できる人でないといけない。なので、後継者となる人を見つけるのは、とても難しいです。」

 

人材育成の難しさを痛感しているという安藤さん。どんな人がうみから食堂に来てくれればうれしいか、聞いてみました。

 

 

安藤:

「料理人としての技術や知識を持っているということは重要ですけど、それ以上に『料理が好き』『美味しいものが好き』『食べることが好き』という気持ちが強い人と出会いたいです。好きという気持ちって、本当にすごいパワーがある。どんな難題もクリアできる大きなエネルギーを生むと思います。」

 

▼スタッフのみなさんと

写真:UMIKARA提供

 

 

 

地元の人たちと、

「食」を通じてつながりたい。

 

 

安藤さんは、町の観光協会主催の料理教室も開かれているのだとか。地元の魚や食材を町のみんなでアピールしていこうという趣旨の料理教室で、参加されているのは町内の飲食業や民宿経営の皆さんです。

 

 

安藤:

「高浜に来てから、町のいろいろな飲食店に行ってみたんですが、そのときに、この町で料理に携わっている人たちに、高浜の食文化について教えてほしいと思ったんです。逆に僕からも料理について伝えられることがいろいろあるんじゃないかなって思っていて。料理教室は、町のみなさんとつながる良いきっかけになると期待して、お受けしたんです。」

 

▼料理教室の様子(高浜公民館にて)

 

この料理教室で町民の方とぐっと近づけた気がするという安藤さん。この料理教室で得た経験や出会った人は、自分にとって、とても価値があると感じているそうです。

 

安藤:

「地方の小さな町って、人との距離感が近いことをよく言われますけど、高浜も確かに人の目はすごく感じます。でも、僕は見守ってくれているって印象なんですよ。安心感があるっていうか。きっと、すごく関係性を大事にしている地域性なんだろうなって思います。町全体がひとつのコミュニティみたいな。そのコミュニティの一員として、どんどん町の人たちと交流していきたいと思っています。」

 

 

いまは、なかなか交流の機会をつくれていないそうですが、その想いを聞くだけで、町民のひとりとして、とても嬉しい気持ちになります。安藤さんも、とてもあったかい人だと感じました。

 

 

 

オンオフの切り替えは苦手?

シェフの休日。

 

 

うみから食堂で忙しい毎日を過ごす安藤さん。お休みの日は、どんなことをしているのか聞いてみました。

 

安藤:

「実は、仕事がとても充実していて、お休みのときも仕事のこと考えちゃったりして。なかなか遊ぶ時間がつくれてないんですよね。実は僕、サーフィンもするんですが、高浜に来てから一度も海に入ってないんですよ(笑)でもサーフィンができてないこととか、あんまり悲しく思ってないんです。海がすごくきれいなので、海を見ながら自宅付近をゆっくり散歩するだけでも満たされています。」

 

 

安藤:

「たまに釣りは行きますよ。仕事のつながりで漁船に乗せてもらったりして。海辺の町ならではの楽しみですよね。とても楽しかったです。」

 

 

お休みの日も、結局はうみから食堂や魚のことばかり優先しているように見えますが、安藤さんは、ちゃんと休めているのでしょうか(笑)

 

仕事だから、役割だからという枠にはまらず、町民のひとりとして町の美味しいものを伝えることに一生懸命なその姿勢には、頭が下がります。そんな安藤さんがシェフを務めるうみから食堂に、ぜひ、足を運んでみてくださいね。

 

・・・

 

【うみから食堂営業時間】 

ランチ営業 / 10:00~15:30 

 

夜営業 (土日のみ営業) / 18:00~22:00 (lo.21:30)

※営業状況などはインスタグラムでご確認ください。

 

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